おかしいんです。
昨日のプレイは、間違いなく最高だった。
ふたりとも盛り上がって、ちゃんとケアもして、笑顔で眠った。
なのに翌日、ふいに悲しくなる。
理由のない不安。
「自分はおかしいんじゃないか」という自己嫌悪。
体は鉛みたいに重い。
もし心当たりがあるなら、安心してください。
それはたいてい、ドロップと呼ばれる、よく知られた反応です。
多くの場合、あなたの心が壊れたのでも、ふたりの関係が間違っているのでもありません。
今日はこの「あとから来る落ち込み」の正体と、付き合い方の話です。
ドロップとは:名前を知っておくだけで、半分は助かる
ドロップは、プレイのあとに来る気分の落ち込みのことです。特に強いプレイのあとに来やすいと言われますが、軽めの回でも来ることはあります。
委ねた側に来るものをサブドロップ、攻めた側に来るものをドムドロップと呼び分けます。
いちばんの特徴は時間差です。
終わった直後に来ることもありますが、数時間後や翌日、ときには数日後に遅れて来ることが多いのが特徴です。
「昨日まで平気だったのに今日急に」となるので、プレイと結びつけて考えられず、「自分が変なんだ」と一人で抱え込みやすい。
この記事でまず伝えたいのは、名前です。
名前を知っていれば、来たときに「ああ、これか」と受け止められます。
理由の分からない落ち込みと、理由の分かっている落ち込みでは、重さがまるで違います。
ドロップは、終わったあとに日常へ戻す「回復」の層の話です(ほかの層とのつながり)。
なぜ来るのか:よく言われる説明と、分かっていないこと
いちばんよく聞く説明は、脳内物質の落差です。
盛り上がったプレイの最中は、興奮や痛みの和らぎ、相手とのつながりに関わる物質が高まっていて、終わったあとにそれが引いていく。
その落差が、気分の落差として感じられる、というものです。
サブスペース・ドムスペースと呼ばれる深い没入の話とも、よくセットで語られます。
ただ、正直に書いておくと、これは「そう考えられている」説明で、ドロップの仕組みがはっきり確かめられているわけではありません。
実際には、ほかのことも重なっているはずです。
- 体の疲れ。強い刺激や緊張は、思っている以上に体力を使います。そこに寝不足や空腹が重なると、気分はそのまま引きずられます
- 強い体験のあとの反動。プレイに限らず、大きなイベントや旅行のあとにぽっかりする感じと、似たところがあります
- 自分へのまなざし。「あんなことを求めた自分」「あんなことをした自分」を、翌日の素の目で見直したときの居心地の悪さ
どれかひとつが原因、というより、いくつかが同じ日に重なったときに落ちやすい。
そう考えておくほうが、無理がないと思います。
サブドロップとドムドロップ
委ねた側(サブドロップ)は、理由のない悲しさや涙もろさ、「あんなことを求めた自分は変なのでは」という恥として出やすいと言われます。
相手に見捨てられるような漠然とした不安や、強い疲れとして出ることもあります。
深く委ねた回、新しいことに挑戦した回、いつもより強度が上がった回のあとは、特に来やすいと思っておいてください。
攻めた側(ドムドロップ)は、罪悪感の形で出やすいと言われます。空っぽな感じや疲れ、相手が大丈夫かという不安として出ることもあります。
「度を越してしまったんじゃないか」「自分は嫌な人間なんじゃないか」。
相手が喜んでいて、合意の範囲内だったとしても、来るときは来ます。
攻めた側が自分でできる手当ては「ドムのセルフケアとドムドロップへの備え」に、ドムスペースとの関係は「ドムスペースとは」にまとめました。
それは、本当にドロップ?
ドロップという名前は便利です。
でも便利なぶん、別のものまでその名前で片づけてしまう危険があります。
ドロップらしい落ち込みは、だいたいこんな形をしています。
- 時間差で来て、理由がはっきりしない
- プレイの記憶そのものは、思い出すと悪くない。むしろ良かった
- 休んだり、くっついたり、言葉をもらったりすると、数日のうちに引いていく
ドロップと呼ばないほうがいい落ち込みもあります。
- プレイの特定の場面を思い出すと、つらい。あのときのあれだけは、嫌だった
- 「本当は止めてほしかったのに、言えなかった」という気持ちが残っている
- 相手の顔を見るのが、少しこわい
こういう落ち込みは、疲れや反動ではなく、合意のどこかに無理があったサインかもしれません(ドロップと重なって来ることもあります)。
ドロップとして休めば治る、という話ではない。
言えそうなら、何が嫌だったのかを言葉にして、やらないことの線を引き直す話です。
言葉にするのもこわいなら、それ自体が、今は無理に続けなくていいサインです。
ただ、「止めて、と伝えた(合図を出した)のに続けられた」のなら、それはあなたの落ち度ではなく、合意が破られたということです。
相手に話すのがこわいときは、ふたりの間だけで解決しようとしなくていい。
信頼できる人や、性暴力の相談窓口を頼ってください。全国共通の「#8891」に電話すると、最寄りのワンストップ支援センターにつながります。交際相手とのことも相談できます。
攻めた側の人に、ひとつお願いがあります。
相手の落ち込みを、こちらから「それ、ドロップだよ」と名付けて片づけないでください。
善意のつもりでも、相手が本当は伝えたかった「嫌だった」を、名前で塞いでしまうことがあります。
名前を使うのは、相手が自分でそう感じたときだけで十分です。
心の中で「ドロップかも」と思っておくのはいい。相手の気持ちに、口に出して名前をつけるのは待ってほしい、という話です。
もし「嫌だった」と言われたら、それを受け止めるのが先です(受け止め方は別の記事に書きました)。
それから、もうひとつの線引き。
落ち込みが1週間近く続く、悪化していく、日常生活に支障が出る。その場合は、ドロップだけでは説明しきれないかもしれません。
消えたい、死にたいという気持ちが出てきたときは、日数に関係なく、すぐに相談してください。
プレイのせいと決めつけて抱え込まず、ためらわず心療内科などの専門家に相談してください。
「落ちてる」と言えるようにしておく
ドロップは、来ていることを本人が言えないと、周りからはほとんど見えません。
翌日は別々に過ごしていることも多いし、落ちているときほど「こんなことで連絡するのは重い」と思ってしまう。
だから、元気なうちに決めておくと楽になる一言があります。
「今日ちょっと落ちてる」。
それだけ送れば伝わる、というふたりの約束です。
理由を説明しなくていい。原因がプレイかどうかも、決めなくていい。
決めておいた一言なら、落ちているときでも出てきやすい。攻めた側からの伝え方は「ドムのセルフケア」にも書きました。
伝えられた側がやることは、多くありません。
- 受け止める:「そっか、教えてくれてありがとう」。原因を探したり、理屈で励ましたりするのは、あとでいい。「何か嫌だったことがあったら、いつでも聞かせてね」と、話せる余地も残しておく
- そばにいる:どうしてほしいかを先に聞いて、相手が望むなら抱きしめる、手を握る。会えないなら、声を聞かせる
- 言葉で肯定し直す:「昨日のあなたは素敵だった」「求めてくれて嬉しかった」。逆向きなら「してくれて嬉しかった」。求めたこと、委ねたこと、攻めたこと自体を、もう一度肯定する
いちばんやってはいけないのは、「え、楽しんでたじゃん」と軽く流すことです。
楽しんだことと、翌日落ちることは、両立します。
どちらも本当なんです。
予防は、アフターケアの時間軸の中にある
ドロップは、ふだんのケアで和らげられることが多いと言われています。
特別な道具は要らず、終わる前・直後・翌日へと続くケアの中に、予防がすでに入っています。
なかでも僕がいちばん意識しているのは、翌日のひと言です。
直後の言葉は高揚の中で聞いていますが、翌日の言葉は素の自分に届きます。
段階ごとに何をするかは「アフターケアのやり方」に、そもそもなぜケアが要るのかは「アフターケアとは」に書きました。
僕らの場合:名前をつけられなかった夜
正直に書くと、僕らはまだ、はっきりそれと分かるドロップを経験していません。
いちばん近かったのは、激しくした日の夜、僕のほうに罪悪感が来たことです。
それを彼女に言ったとき、返ってきたのは、理由を探す言葉でも励ましでもなく、短い「いいよ」でした(そのときのことはアフターケアのやり方に書いています)。
今振り返っても、あれでちょうどよかったと思っています。
あれをドロップと呼んでいいのかは、自分でも分かりません。
それでも、知っているだけで少しは落ち着いていられるはずだと思って、備えています。
まとめ
- ドロップ=プレイのあとに時間差で来ることが多い気分の落ち込み。サブ側は悲しさや恥、ドム側は罪悪感の形を取りやすい
- 脳内物質の落差がよく言われる説明だが、はっきり確かめられてはいない。疲れや反動、自分へのまなざしも重なる
- 特定の場面がつらい・本当は嫌だったなら、それはドロップではなく合意の話かもしれない。名前で片づけない
- 「今日ちょっと落ちてる」と言える一言を決めておく。伝えられたら、まず受け止める
- 1週間近く続く・日常に支障が出るなら専門家へ。消えたい気持ちが出たら日数に関係なくすぐに。合図を無視されたなら、相談窓口(#8891)も頼っていい
翌日の落ち込みは、ふたりが壊れたサインではないことがほとんどです。
名前を知っていて、言える一言を用意してある。
それだけで、来ても慌てずにいられます。

