このサイトの体験記、1本目です。
最初に言っておくと、僕らは特別な人間ではありません。
出会った頃はごく普通の、いわゆる「バニラ」なカップルでした。
僕に至っては、SMに興味がないどころか「女の子にひどいことなんてできない」と本気で思っているタイプ。
今こうしてSM・D/sについてのサイトを書いているなんて、当時の僕に言っても絶対に信じません。
だからこれは、「最初からそっちの世界の人」ではない、ごく普通のふたりがどうやってここまで来たかの記録です。
始まりは、ピロートークのひと言だった
付き合って数ヶ月たった頃。
行為のあとの、ゆるんだ空気の中で、彼女がぽつりと言いました。
「……後ろから、お尻を叩かれたりすると、興奮するかも」
劇的な告白でも何でもない、本当に小さなひと言です。
でも、振り返ればすべてはここから始まりました。
正直に書くと、僕は戸惑いました。
冒頭の通り「ひどいことはできない」側の人間です。
好きな相手を叩く? 痛がらせる? 頭の中で何かが噛み合わない。
でも同時に、彼女が勇気を出して開示してくれたことは分かりました。
だから否定だけはしなかった。
「そうなんだ。じゃあ、ちょっとだけ試してみる?」
今思えば、このとき茶化したり、「変なの」と笑わなかったことが、僕らの分岐点だったと思います。
「ひどいこと」と「求められて応えること」は違った
最初は、本当に軽いスパンキングから。
力よりも、確認のほうがずっと多い夜でした。
「痛くない?」「嫌じゃない?」「これくらい?」——いちいち聞きながら、探り探り。
そこで僕が目の当たりにしたのは、予想と正反対の光景でした。
彼女は嫌がるどころか、明らかにいつもより気持ちよさそうで、距離が近い。
僕の中の等式——「叩く=ひどいこと」——が、音を立てて崩れていきました。
相手が望んでいないことを一方的にするのは、ひどいこと。でも、相手が望んでいることに応えるのは、ケアだ。 行為の表面ではなく、そこに流れている合意と信頼が意味を決める。
後から学んだD/sの考え方を、僕は先に体で理解したのだと思います。
(この「行為と意味」の話は「SM・D/sって何?」に詳しく書きました)。
調べ始めて、「雑なSM」との違いを知った
彼女の反応に応えたい一心で、僕は調べ始めました。
そして知ります。
世間が「SM」と雑に呼んでいるものの向こうに、合意と安全とケアを土台にした、D/sという関係性の文化があること。
AVで見るような「痛めつける行為」は演出であって、本体は地味な対話と信頼の積み重ねであること。
このとき調べる習慣をつけたことが、後々ずっと僕らを守ってくれました。
やりたいことが増えるたびに、先にリスクと正しいやり方を調べる。
盛り上がりに任せてエスカレートしない。
——格好をつけて書いていますが、要は怖かったんです。
大切な相手だから、間違えたくなかった。
首輪を着けた夜、「役割」が生まれた
少しずつ幅を広げていったある時期、彼女から「もっと」のリクエストがありました。
もっと支配的に、もっと本格的に。
悩んで選んだ最初の本格的なグッズが、首輪でした。
見せたとき、彼女は喜んでくれた。
そして実際に着けてみて、僕は驚くことになります。
首輪を着けた瞬間、部屋の空気が変わるんです。
「今からはそういう時間」という切り替えのスイッチ。
彼女は役割に深く入り、僕も——「ひどいことはできない」はずの僕も——導く側の役割に、すっと入れた。
儀式の力、と呼びたくなる何かがありました。
その夜は、それまでで一番盛り上がった夜になりました。
そして大事なのはここです。終わって首輪を外したら、僕らはいつものふたりに戻った。 水を飲んで、ベッドに並んで、くっついて眠る。
非日常と日常がちゃんと分かれているから、安心して非日常を深められる。
このあたりから、僕らの関係は明確に「ただのカップル」から「D/sを楽しむカップル」になっていったのだと思います。
そして不思議なことに——いや、今なら理屈も分かるのですが——プレイが深まるほど、日常の仲も良くなりました。
振り返って、大事だったと思うこと
僕らの「きっかけ」を分解すると、運が良かった点と、意識して良かった点がそれぞれあります。
- 彼女が開示できる空気があったこと——これは半分運です。でも「相手の小さな開示を笑わない・否定しない」は、今日から誰でも選べます。性癖の話は、開示した側が世界一無防備になっている瞬間だから
- 一歩ずつ、確認しながら進んだこと——一足飛びに「本格SM」をやろうとしなかった。軽い行為→反応を見る→対話する→少し進む。この刻み幅が信頼を太くしました
- 調べることをサボらなかったこと——情熱は学びで支える。ちなみに恥を忍んで書くと、セーフワードを決めたのはかなり後になってからです。それまでの僕らは正直、無防備でした。同じ場所にいるあなたは、ぜひ僕らより早く決めてください(「セーフワードを決められないあなたへ」に切り出し方まで書いています)
まとめ——きっかけは、たぶんもう転がっている
僕らの始まりは、ピロートークのひと言でした。
ドラマチックな目覚めでも、特別な出会いでもなく。
もしあなたが「うちのパートナーはそういうタイプじゃないし」と思っているなら、一つだけ。
開示は、安全だと感じた場所でしか起きません。
きっかけを探すより先に、小さな本音を笑わずに受け止める準備をしておく——それが、ふたりの世界の扉がノックされたときに、ちゃんと開けられる唯一の方法だと僕は思っています。
安全の約束
このサイトの記事は、二人の合意と安全を前提にしています。相手の同意なく試さないこと。少しでも不安があれば、行為の前に話し合うこと。そして、終わったあとは互いをケアすること。


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