SSC・RACKとは――BDSMの安全を支える原則と、その使い方

BDSMやD/sについて調べ始めると、たぶんすぐに「SSC」や「RACK」という言葉に出会います。

アルファベットの並びで、ちょっと取っつきにくい。
でもこれは、暗記するための専門用語ではありません。
「大切な相手を、間違って傷つけないため」に、先人たちが積み上げてきた知恵の合言葉です。

この記事は、その二つ(と、その先にあるいくつか)を、できるだけやさしく整理する入口です。

目次

SSC――安全・正気・合意

いちばん有名なのが SSC です。
Safe(安全)・Sane(正気)・Consensual(合意)の頭文字。

  • 安全:心や体に、取り返しのつかない傷を残さない
  • 正気:お酒や薬で判断が鈍っていない、クリアな頭で
  • 合意:関わる全員が、心から「いいよ」と言っている

この言葉、調べてみると意外と歴史が古いんです。生まれたのは1980年代のアメリカ。
そのきっかけが、僕はいいなと思っていて――初心者が、”支配者ぶった”危険な相手に食い物にされないように、という「仲間を守りたい」気持ちから作られた言葉なんです。
SSCは最初から、弱い立場の人を守るための旗印だった。

RACK――リスクを承知で、選ぶ

次に出会うのが RACK。
Risk-Aware Consensual Kink――「リスクを承知した、合意ある嗜好」。

なぜ、SSCがあるのに別の言葉が生まれたのか。
ここが、この話のいちばん面白いところです。

SSCの「安全(Safe)」は、ともすると「リスクをゼロにできる」と読めてしまう。
でも正直に言えば、100%安全な行為なんて、どこにもありません。
道を渡ることにだって、リスクはある。
それに「正気(Sane)」も、何が正気かを誰が決めるのか、という難しさがつきまといます。

そこでRACKは、こう言い換えました。
「リスクはゼロにできない。だからこそ、リスクをちゃんと知った上で、それでも合意して選ぶ。
危険から目を背けるのではなく、見据えた上で引き受ける。そういう、一歩おとなびた態度です。

ひとつ補足を。
RACKが生まれたからといって、SSCが間違いだったわけではありません。
面白いのは、SSCを作った人自身が「あれは”最低限の基準”のつもりだったんだ」と言っていること。
入口としてのSSC、もう一歩踏み込んだRACK。そう捉えるのが、僕にはしっくりきます。

PRICK――責任は、人に預けない

もうひとつ、RACKに「責任」を足した PRICK という言葉もあります。
Personal Responsibility(個人の責任)を頭に付けたもの。

意味はシンプルで、自分の安全と選択の責任は、自分にあるということ。
「経験者だから」「攻める側(Dom)だから」と、相手に丸投げしない。

これはD/sのように、ふたりのあいだに立場の差がある関係ほど大切です。
委ねる側も、ただ身を預けるだけでなく、「これは嫌」「ここまで」を自分の責任として持つ。
その「ここまで」を、あらかじめ言葉にしておく作業がハードリミットとソフトリミットです。
任せることと、丸投げすることは、違うんです。

ケアを真ん中に置く考え方も

もっと最近には、4Cs(Caring・Communication・Consent・Caution=ケア・対話・合意・注意)のように、ケアと関係性を前面に出す枠もあります。
「安全か危険か」の線引きより先に、「相手を大切に思っているか」を真ん中に置く考え方です。

煽らず、関係性を大事にしたいと思っている僕らのようなスタンスには、これがいちばん馴染むかもしれません。

「どれが正しいの?」で迷わなくていい

ここまで読んで、「結局どれを守ればいいの?」と思ったかもしれません。
答えは、どれが正しいかの勝ち負けではない、です。

これらは対立しているのではなく、重点の置きどころが違うだけ
そして全部に共通する芯は、たったこれだけです。

リスクを知り、無理をせず、心から合意して、互いをケアする。

略語を暗記する必要はありません。
迷ったら、この芯に立ち返れば大丈夫です。
ちなみに僕ら自身は、「リスクは見据える・責任は持つ・でも何よりお互いを大切に」を出発点にしています。これも、ひとつの例として。

絶対に外してはいけない、三つのこと

やさしく書いてきましたが、ここだけは強く言わせてください。

  1. RACKは「何でもアリ」ではありません。 リスクを”承知する”とは、危険を名指しできて、防ぎ方も知っている、ということ。知らずに突っ込むのは、ただの無謀です。
  2. どの原則も、免罪符ではありません。 ふたりが合意しても、回復できない危害や違法な領域は別の話です。
  3. 責任は、人に預けられません。 立場の差があるカップルこそ、「任せきり」を戒めてください。

原則が腑に落ちたら、次は「やり方」へ

この記事は、BDSMの安全を支える”考え方”の入口です。
原則がなんとなく腑に落ちたら、次は具体的な実践へ進んでみてください。

まとめ

  • SSC=安全・正気・合意。初心者を守るための入口の旗印
  • RACK=リスクはゼロにできない。だから知った上で、合意して選ぶ
  • PRICK=責任は自分のもの。立場が上の側に丸投げしない
  • どれが正しいかではなく、重点の違い。芯は「リスクを知り・無理せず・合意し・ケアする」
  • 原則は免罪符ではないし、RACKは何でもアリではない

言葉は、あとからついてきます。
大事なのは、大切な相手を間違って傷つけたくない、その気持ちのほう。
それさえあれば、あなたはもう、いちばん大事な原則を持っています。

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