セーフワードの話をすると、たいてい「赤=やめて」のことばかりになります。
もちろん、止められることは大事。
でも、信号システムの本当の力は、実はもう一方にあります。
緑=「いいよ、もっと来て」を、恥ずかしさなく伝えられること。
そして、黄=「まだ止めなくていいけれど、手前まで来ている」を言えること。
今日は、赤・黄・緑の正しい使い方と、信号は「進むための言葉」でもある、という話をします。
このサイトでは、安全を6つの層に分けて考えています(全体の地図は「安全は6つの層でできている」)。合図はそのうちの第4層で、ここではその「止める以外の使い道」を書きます。
三つの色の、正確な意味
信号システムは、信号機の色をそのまま借りた合図です。
- 緑=続けてOK、もっと来ていい。「今のペース・強さでうまくいっている」という積極的なサイン。ここで大事なのは、緑は「痛くない」という意味ではないこと。強い刺激や痛みが、そのふたりにとって「望まれている」状態でも、緑は出ます。緑=「これでいい・もっと」の意思表示です
- 黄=限界に近い、調整して。「ペースを落として」「少し休ませて」「強すぎる」「このまま続けるか確認したい」。止めるのではなく、調整するための合図です
- 赤=今すぐ、全部止めて。体の痛みでも、気持ちがいっぱいになったでも、ただ呼吸を整えたいだけでも、理由を問わず即ストップ。そして、赤は決して問い返さない。「本当に?」と聞き返さないことが、赤への信頼を守ります
なぜ「止める」の一語ではなく、三段階なのか
合図を「赤」の一語だけにする形もあります。覚えることが少ないぶん、いざというときに出やすい。それはそれで、ちゃんとした選択です。
ただ、一語だけだと、伝えられるのは「止める」か「止めない」かの二択になります。
そのあいだにある「まだ平気。でも、だいぶ近い」を置く場所がありません。
置き場所がないと、受け手はどうするか。
たいていは、黙って我慢します。止めるほどではないのに赤を出すのは大げさな気がするし、せっかくの流れを切りたくもない。
そして我慢の先で、いきなり限界が来る。
黄は、その手前を言うための色です。
「止めなくていいから、少しゆるめて」と言える場所がひとつあるだけで、限界まで黙っている理由がなくなります。
赤が非常ブレーキなら、黄は、そこまで行かないための減速です。
この記事の主役は、緑です
「もっと」を言葉にするのは、「やめて」を言うのと同じくらい難しい。
「こんなこと言ったら、はしたないかな」
「引かれないかな」
その遠慮で、本当はもっと求めているのに、言い出せないことがある。
緑は、その遠慮を外すための許可証です。
「緑って言っていいんだ」と決めておくだけで、「もっと」が、ぐっと言いやすくなる。
そして攻める側も、緑があれば推測でなく、確かめながら踏み込める。
プレイ中の言葉は、本心と見分けにくいからこそ、はっきりした緑のサインは、お互いを安心させます。
ただ、緑には気をつけたいことが二つあります。
ひとつは、緑は「今の」緑だということ。
さっき緑だったからといって、強さを上げたあとも緑だとは限りません。緑は「ここまでの全部」への許可ではなく、その瞬間の状態の報告です。
もうひとつは、緑を言わせにいかないこと。
「緑でしょ?」「まだいけるよね?」と聞くのは、確かめているようで、答えを決めて渡しています。そう聞かれて「黄」と返すのは、思っている以上に難しい。
聞くなら、答えを決めずに聞く。その聞き方は、少しあとで書きます。
いちばん難しいのは、黄
赤と緑はわかりやすい。
運用でいちばん難しいのは、実は黄です。
黄が出たとき、いちばんいけないのは黙殺することです。
反対に、毎回赤と同じように全部止めてしまうのは、危険ではありません。ただ、それが続くと黄の意味が赤に寄っていき、「手前」を言う場所がまたなくなります。
黄への返し方は、いったん緩めて、言葉で確かめる。
黄は「会話を始める合図」だと思っておくと、ちょうどいい。
順番にすると、こうなります。
- まず緩める。聞く前に、手を止めるか弱める。質問は、そのあと
- 短く聞く。「どうする? このまま? 変える? 休む?」。長い説明は、相手にとって負担です
- 相手に選んでもらう。このまま続ける、やり方を変える、少し休む、赤にする。どれを選んでも正解です
- 黄が続いたら、その日はそこまでにする。何度も黄が出るのは、今日の体や気持ちがそこまでだというサインです
そして、もうひとつ大事なのは、黄をもらったときの顔です。
がっかりした様子や、「せっかくいいところだったのに」という空気は、言葉にしなくても伝わります。
それを一度でも感じると、次から黄が出にくくなる。
言えない側が何を怖がっているかを知っておくと、黄を受け取ったときに最初に返す言葉は、たぶん「ありがとう」になります。
赤が出たら、止めたあとにすること
赤のルールは「問い返さずに、すぐ全部止める」。ここまでは、どこにでも書いてあります。
でも、止めたあとに何をするかは、意外と決めていないふたりが多いと思います。
赤が出た直後の受け手は、体か気持ちのどちらかが、いっぱいになっています。
だから攻める側は、次の順番で動きます。
- 拘束や、押さえている手を、先にほどく。止めても体が固定されたままでは、本当には止まっていません
- 体の様子を見る。呼吸、顔色、痛がっている場所。必要なら水を渡す
- そばにいる。離れてひとりにしない。触れていいかどうかは、相手の様子で決める
- その日は、そこで終わりにする。落ち着いたからといって、同じ夜に再開しないのが基本です
- 理由は急いで聞かない。その場で「何がだめだった?」と聞くのは、問い返しと同じ重さを持ちます。聞くなら翌日以降、次にする前に
そのあとの手当てのしかたは、プレイのあとのケアの実際に書いています。
そして、赤を出した相手を責めないこと。
赤は、約束が正しく働いたという意味です。失敗ではありません。
ちなみに、僕らはまだ一度も、本気の赤を使ったことがありません。
それを「決めた意味がなかった」とは思っていなくて、その考え方は合図を決めた記事の最後に書きました。
使われないまま、ずっとそこにある。赤はそれでいいんだと思います。
攻める側から「今、何色?」と聞く
信号は、受け手が自分から出すだけのものではありません。
攻める側から「今、何色?」と聞く使い方があります。カラーチェックと呼ばれることもあります。
これがいいのは、答える側の負担が小さいことです。
「大丈夫? つらくない? 続けていい?」と聞かれると、気を遣って「大丈夫」と答えがちになる。
でも「何色?」なら、色をひとつ返すだけ。黄が言いやすくなります。
さっき書いた「答えを決めずに聞く」は、こういう聞き方のことです。
ただし、ひとつだけ注意があります。
返事がない、あるいは返事がはっきりしないときは、緑とみなさない。
深く入り込んでいるときは、言葉が出にくくなることがあります。返事がないのは「続けていい」のしるしではなく、「言葉で確かめられない状態に入った」かもしれない、というしるしです。
だから、二つに分けて考えます。
- 返事がはっきりしないときは、いったん緩めて、非言語の合図で確かめる。それでも読めなければ止める
- 反応そのものがないときは、待たずにすぐ止める。拘束をほどき、呼吸と意識を確かめる。様子がおかしければ、迷わず救急を呼ぶ
「やめて」と言われないことは、続けていい証明にはならないのと同じです。
どうやって決める?
合図は、できればプレイの外で、落ち着いているときに決めます。
熱が入ってからだと、聞く側も答える側も、ちゃんと考えられません。
……と書きつつ、僕は結局プレイの流れの中で説明することになりました。それでもうまくいったので、外で決められなかったからといって諦める必要はありません。決めないまま始めるよりは、ずっといい。
決めるときにひとつ足しておきたいのは、色の意味を、ふたりの言葉で言い直しておくことです。
特に黄は、人によって範囲が違います。「ちょっと痛い」で出すのか、「もう少しで無理」で出すのか。
「黄って、うちではどのくらいのとき?」と一度話しておくだけで、黄が出たときに慌てずに済みます。
そして、始める前に毎回ひとこと。
「今日の合図は、赤・黄・緑ね」。
この小さな確認が、儀式のように、ふたりを安全のスイッチに切り替えてくれます。
声が出せないときは、別の合図を
ひとつ、限界があります。
信号は「言葉が使えること」が前提です。
深く集中して言葉が出にくいとき、口がふさがっているとき、色は伝えられません。
だから、色とセットで言葉以外の合図も決めておく。
役割を分けると、こうなります。
- 色(赤・黄・緑)=度合いを伝える。言葉が使える場面の、細やかな調整の言語
- 非言語(タップなど)=止めることに特化。言葉が使えない場面で、止めるためだけに使う合図
非言語にも段階をつけることはできますが、細かくするほど、いざというときに思い出せなくなります。迷ったら「3回で停止」だけは、ふたりで必ず覚えておく。
色は濃淡まで伝えられるけれど、言葉が要る。
非言語は濃淡までは伝えられないけれど、言葉がいらない。
両方あって、声が出る場面にも出ない場面にも備えられます。
僕らが信号を使ってみて
最初の僕は、合図というのは止めるためのものだと思っていました。
赤・黄・緑を決めた夜のこと、練習で彼女が初めて「緑」と返してくれたときのことは、合図を覚えていった夜の体験記に書いています。
ここで書き足しておきたいのは、その後のことです。
今の僕らは、色の名前をそのまま口にすることはほとんどありません。そのかわりに「ちょっときついかも」が出ます。
これは、たぶん黄の言い換えです。止めてではなく、ゆるめて。
色を口にしなくなっても、「手前で言っていい」という黄の役目は、ふつうの言葉のほうに引っ越して残っています。
僕の側から見ると、それは彼女がその一言を「言ったら受け止めてもらえる」と思えている、ということでもあります。
そう思っていてもらえることが、合図を決めてよかったと、いちばん思うところです。
もし同じように色を口にしなくなったら、ひとつだけ足しておくといいと思います。
初めてのことや、いつもより強いことをする日は、色に戻る。
慣れた範囲なら、ふつうの言葉でも通じます。でも新しい場所では、ふつうの言葉が裏返りやすい。そこで頼れるのは、その意味にしかならない言葉のほうです。
こういう「今どう?」のやりとりは、作品にはまず映らない部分でもあります。
地味だけれど、現実でいちばん効くのは、たぶんこのあたりです。
まとめ
- 信号システム=赤(即停止)・黄(調整)・緑(続行・もっと)
- 三段階にする意味は、黄=「手前」を言える場所があること
- 緑は「痛くない」ではなく「今これでいい・もっと」。言わせにいかない
- 黄は、緩める→短く聞く→相手が選ぶ。続いたらその日はそこまで
- 赤は問い返さずに止め、拘束をほどき、そばにいる。その日はそこで終わり
- 「今、何色?」と聞いていい。返事がないのは緑ではない。反応がなければすぐ止める
- 色の意味はふたりの言葉で言い直しておく。声が出ない場面には非言語の合図を
信号を決めると、止められるようになる。それは最初から分かっていることです。
使い続けてみて分かるのは、その先で、ふたりが「もっと」と「ちょっと待って」を、ふつうの声で言えるようになっていくことのほうでした。

