立場が入れ替わった夜――「対等」が、こんなにうれしいなんて

僕らのプレイは、たいてい僕が主導権を握る側です。
首輪をつけて、リードして、彼女がそれに応えてくれる。
その役割が、僕らにはしっくりきていました。

でも、ある夜のことです。
彼女のほうから、「お願いがあるんだけど」と切り出されました。

目次

いつもと、逆だった

首輪をつけて、これから始まるというタイミングでのことでした。
彼女が口にしたのは、いつもなら僕がするようなことを、今度は自分がしてみたい、という願いでした。
言葉にするのは少し気恥ずかしいので具体的には書きませんが、立場がふっと入れ替わるような、そんなお願いです。

僕らには「あなたがサブで、僕がドム」というふうに役割を固定して決めているわけではなく、その日どちらが何をするかは、いわば提案から始まるものでした。だから彼女のそれも、思いつきの好奇心に近いノリだったと思います。

正直、最初は驚きました。
「これって、彼女のほうが攻めてるってこと?」と、頭の中が一瞬ぐるぐるした。
僕はずっと、自分は「導く側」だと思っていたから。

でも、断る理由はどこにもなかった。
彼女がしたいと言うなら、応えたい。
それに――自分でも意外だったんですが、僕はそれを、嫌だと思わなかったんです。

対等な感じが、うれしかった

やってみて、いちばん強く残ったのは「対等だ」という感覚でした。

いつもは僕が上で、彼女が委ねる側。
その夜は、その線がふっと消えて、二人で同じところに立っているような感じがしたんです。
役割を演じ合うのとは、また違う近さ。

正直に言うと、僕は叩かれたり苦しくされたりすることそのものに喜びを感じるタイプではありません。だから肉体的には、彼女が普段感じているようなものとは、たぶん違ったと思う。
でも、相手が楽しそうにしている姿を見るのは、それだけでうれしくなる。
精神的な面では、僕にもスイッチなところがあるのかもしれない。
そんなふうに、自分のことを少し知れた夜でもありました。

役割は、固定じゃなくていい

このことがあってから、僕の中で一つ、肩の力が抜けました。

D/sというと、「攻める人」と「委ねる人」がきっぱり分かれているイメージがあるかもしれません。
でも僕らの場合、その役割は、その日の気分で入れ替えてもいいものでした。
固定された主従じゃなくて、信頼で繋がった、対等な二人。

役割を固定しないことについては「ふたりともスイッチかもしれない」に、同じ行為でも立場で意味が変わる話は「同じ行為なのに、真逆」に書いています。

ひとつだけ、大事な補足を。
こういうふうに深く委ね合えるのは、お互いに検査も済ませて、信頼できるただ一人の相手だからです。そこは、外せない前提として書いておきます。

される側を味わって、分かったこと

やってみて、もう一つ気づいたことがあります。
される側をやってみると、彼女がいつも何を感じているのかが、体でわかるようになる。
そして、その感覚を知った分だけ、次に自分が攻める番になったとき、ためらわず、より深く攻められるようになりました。実際その後、僕がもとの役割に戻ったとき、いつもよりずっと思いきり攻めることができた。

一度入れ替えてみたことで、もとの役割に戻ってからのほうが、以前より相手のことが分かるようになった気がします。
役割を固定しないことは、固定された役割の解像度を上げることでもあるのかもしれません。

立場が変わっても、変わらないもの

立場が入れ替わっても、根っこは何も変わりませんでした。
終わればいつものように、くっついて、その夜のことを少し笑い合って。

役割は、入れ替えられる。
でも「相手を大切にしたい」という気持ちだけは、どっちが上でも下でも、ずっと真ん中にありました。
それが分かったことが、あの夜のいちばんの収穫だったな、と思います。

目次